国立国際美術館で特別展「コトバの重なる場所」 16組の作家が言語と文化の交わる場所を見つめる


言葉が出会い、ぶつかる場所をテーマにした特別展
大阪・中之島の国立国際美術館で、2026年12月1日(火)から2027年3月14日(日)まで、特別展「コトバの重なる場所」が開かれます。会場は地下3階の展示室です。館のコレクションを活用した展覧会で、国内外の16組の作家の作品を通して、言語や民族、イデオロギー、文化が交錯する場所にまつわる映像、イメージ、言葉を取り上げます。国立国際美術館と大阪中之島美術館の連携事業「コレナカ(Collections in Nakanoshima NMAO–NAKKA)」の一環として、大阪中之島美術館が所蔵する作品も並びます。
翻訳アプリの進化で複数の言語を手軽に扱えるようになり、異文化理解における言語の壁は格段に下がりつつあるように見えます。一方で、言語や言葉は意思疎通の道具であるだけでなく、長い時間をかけて文化や芸術を形づくり、私たちの思考や意識を育て、変えてきました。異質な「コトバ」を持つ集団や人々が向き合うとき、その接触が前向きな発見や変化につながることもあれば、衝突や対立、支配や抑圧といった非対称な関係が繰り返し生じてきたことも忘れることはできません。本展では、アジアで境界的とされてきた地域を中心に、土地の歴史やそこに生きる人々の経験・記憶に光を当てる作品を紹介します。植民地支配や戦争による分断、規範的な言語やイデオロギーによる抑圧といった側面を浮かび上がらせ、公的な記録からこぼれ落ちてきた人々の心のありように思いを向けさせる作品群です。

3つの見どころ
展覧会の見どころとして、次の3点が挙げられています。
- 「コンタクト・ゾーン」をテーマに、写真・映像作品でアジアの諸地域を見つめる:「コンタクト・ゾーン」は、文学・言語学者のメアリー・ルイーズ・プラットが1991年の講演で用いた概念で、「文化が出会い、衝突し、葛藤する社会的空間」を指します。植民地の拡大や戦争、国家間の対立による分断を経験してきたアジアのなかでも、言語や文化が接触し合い、特異な歴史をたどった地域にまつわる作品が登場します。
- 国立国際美術館が近年収蔵した映像インスタレーション作品を初展示:中国を代表する現代美術家ツァオ・フェイの日本未発表作品《マトリョーシカ・バース》(2022年)や、韓国を代表するアーティスト・デュオで、2022年に金沢21世紀美術館で大規模な個展が開かれたムン・キョンウォン&チョン・ジュン(チョン・ジュン氏は2026年にチョン・ジュンホより改名)の《未知からの知らせ:フリーダム・ヴィレッジ》(2021年)など、規模の大きな映像インスタレーションが展示されます。ほかにも近年収蔵された作品が公開されます。
- 「コレナカ」で両館のコレクションが対話:今年度から始まった「コレナカ」は、国立国際美術館と大阪中之島美術館が互いのコレクションと専門性を活かし、地域文化の振興と地域活性化を目指す取り組みです。本展では、大阪中之島美術館が所蔵する、大阪を代表する版画家・前田藤四郎の作品や、海外の若手作家ナタリア・パパエヴァ(ブリヤート共和国出身、1989年生まれ)、ホー・ルイアン(シンガポール出身、1990年生まれ)の映像作品が展示されます。
出品作家は、平敷兼七、下道基行、ツァオ・フェイ、前田藤四郎、村岡三郎、山城知佳子、上原沙也加、小泉明郎、イリヤ・カバコフ、北島敬三、ナタリア・パパエヴァ、ムン・キョンウォン&チョン・ジュン、竹川宣彰、今津景、ホー・ルイアン、キャリー・ヤマオカです。

章ごとに見る展示の内容
章「コトバの重なる場所」では、国家の思惑が交錯した場所の歴史をひもときます。冒頭を飾るのは、アメリカ統治下から日本への「復帰」運動が高まった1960年代~70年代の沖縄で、平敷兼七(1948-2009)が沖縄本島各地や離島を巡って人々の暮らしを撮影した写真です。大日本帝国の拡大とともに東アジアや東南アジア、南洋諸島などに建てられた「海外神社」の遺構を主題とする下道基行(1978年生まれ)の「torii」シリーズも並びます。北京を拠点とするツァオ・フェイ(1978年生まれ)は、内モンゴル自治区内にありロシアと国境を接する都市・満洲里(まんしゅうり)を取材し、現地で撮影した映像を用いて、異なる言語と文化、過去と未来が交錯する《マトリョーシカ・バース》(2022年)を制作しました。あわせて、1943年から45年にかけて満洲里をはじめ中国東北部(旧「満洲国」)各地を訪ね、人々や風景を描いた前田藤四郎(1904-1990)の「満洲スケッチ」が紹介されます。
章「忘却の縁にて」は、戦争や内戦の記憶とその継承がテーマです。特攻要員として敗戦を迎えた村岡三郎(1928-2013)の彫刻《タナトス・D》(1975年)は、中国東北部での兄の死を伝える戦死公報と拳銃(モデルガン)を向かい合わせ、情緒性を排して肉親の死を表した作品です。山城知佳子(1976年生まれ)の映像作品《あなたの声は私の喉を通った》(2009年)は、サイパンでの戦争経験者の語りをなぞるように読み上げて追想し、戦争体験を受け継ぐことの難しさに向き合います。上原沙也加(1993年生まれ)の《平和の島》(2023-25年)は、10点の写真と文章で構成され、日本統治時代に琉球移民が多く移り住んだ台湾北部の「和平島」を主題に、痕跡だけでなく喪失や不在にも触れながら島の歴史を想像しようとする作品です。小泉明郎(1976年生まれ)の映像インスタレーション《忘却の地にて》(2015年)では、記憶障害を持つ男性が日中戦争に従軍した元日本軍兵士の証言を暗誦し、記憶を語ることに伴う肉体的な負荷が可視化されます。
章「詞(ことば)の行方」では、表現が統制された状況での人々の暮らしや、母語からの分離を扱います。ソビエト連邦時代のウクライナに生まれたイリヤ・カバコフ(1933-2023)は、芸術表現が統制されるなか、絵本の挿絵画家として生計を立てながら非公式な芸術活動を続けました。閉塞した社会に生きる人々の日常をユーモアと哀しみを交えて描いた彫刻や版画が並びます。北島敬三(1954年生まれ)の《USSR 1991》(1991年)シリーズは、ソ連崩壊直前の1990年から1991年にかけて30を超える都市を訪れ、民族・宗教・言語の異なる人々の肖像を撮影したものです。ブリヤート共和国出身のナタリア・パパエヴァ(1989年生まれ)によるパフォーマンスの記録映像《ヨーホル》(2018年)では、多くのブリヤート人と同じくロシア語で教育を受けてきたパパエヴァが、伝統的な民謡のうち、母語の歌詞を覚えている唯一の2フレーズを切々と歌い続けます。
最終章「群島から」には、離れた場所や地域のつながりを探る作品が集められます。竹川宣彰(1977年生まれ)の《ナマコシップ》(2011年)は、東アジアでよく食されるナマコが黒船の模型を飲み込む様子をボトルシップの形で表した彫刻です。今津景(1980年生まれ)の絵画《WEWE》(2022年)は、ジャワ神話の幽霊や、西洋・東洋の世界の起源にまつわるモチーフを用い、複数の「WE(私たち)」を重ね合わせようとします。ホー・ルイアン(1990年生まれ)の映像作品《Student Bodies》(2019年)は、日本、韓国、シンガポール、タイ、マレーシアの学生をめぐる出来事や事件に着目し、各国の経済発展と資本主義化がもたらした歪みの歴史をたどります。日系アメリカ人作家キャリー・ヤマオカ(1957年生まれ)の《群島(2019年)》(2019年)は、監禁や拘禁に関わる施設があった、あるいは今もある場所の地名や施設名を描いたプリントを連ねた作品で、地名のないプリントや何も置かれていない空白に、まだ名付けられていない場所や知らない場所への想像が託されています。

開催概要
観覧料には、同時期に開かれる「開館50周年記念プレ企画 コレクション2:歴史化する現代」(2026年12月1日(火)– 2027年3月22日(月・休))の観覧も含まれます。
- 会期:2026年12月1日(火)~2027年3月14日(日)
- 会場:国立国際美術館 B3F展示室(大阪・中之島)
- 開館時間:10:00 – 17:00、金曜は20:00まで(入場は閉館の30分前まで)
- 休館日:月曜日(ただし、1月11日は開館)、1月12日、年末年始(12月28日– 1月4日)
- 観覧料:一般1,800円(1,600円)/大学生1,200円(1,100円)。( )内は20名以上の団体料金および夜間割引料金(対象時間:金曜17:00-20:00)
- 高校生以下・18歳未満無料(要証明)、心身に障がいのある方とその付添者1名無料(要証明)
- 主催:国立国際美術館/協賛:公益財団法人ダイキン工業現代美術振興財団/助成:一般財団法人安藤忠雄文化財団
- 企画担当:国立国際美術館 研究員 武本彩子
- 問い合わせ:国立国際美術館(〒530-0005 大阪府大阪市北区中之島4-2-55)TEL:06-6447-4680(代)平日10時〜17時
関連イベントとして、アーティスト・トークやギャラリー・トークなどの開催が予定されており、詳細は決まり次第、同館のウェブサイトなどで告知されます。
出典:文化庁


