第17回山田風太郎賞は恒川光太郎『幽民奇聞』に決定 若き民俗学者が歴史の闇に生きる集団「キ」の痕跡を追う連作集

株式会社KADOKAWAが主催する文学賞「山田風太郎賞」の第17回受賞作が、恒川光太郎さんの『幽民奇聞』(ゆうみんきぶん)に決まりました。選考会は2026年10月22日(木)午後4時から、東京都千代田区丸の内3-2-1の東京會館で開かれ、選考委員の審査によって受賞作が選ばれました。
選考委員は朝井まかて氏、貴志祐介氏、桜木紫乃氏、馳 星周氏の4名(五十音順)です。今回、馳氏は書面で回答し、貴志氏は欠席しました。
選考委員・朝井まかて氏「これぞ小説を読むことの醍醐味」
選考委員を代表して選評を述べたのは朝井まかて氏です。受賞の理由について、「人間の闇の歴史を、民俗学の様々な概念、言い伝え、伝承、いろんなものを通して人間の営みの中で描いており、大変魅力的」と評価しました。さらに「これぞ小説を読むことの醍醐味」「ジャンル小説を超えて面白いものを選んだ」とも語っています。
恒川光太郎さん「ホラー作家として山田風太郎賞は一つのゴール」
同日の記者会見で、恒川さんは「去年でデビュー20周年、ホラー作家として山田風太郎賞は一つのゴール」と受賞への思いを語りました。あわせて「新しい作風を目指し、時代小説の要素を強めにした本作を評価してもらえた事は嬉しい」とも述べています。
恒川さんには、正賞として記念品(名入り万年筆)、副賞として100万円が贈られます。贈賞式と祝賀会は11月下旬に都内で開催されます。この場では角川三賞として、本賞に加えて『第46回横溝正史ミステリ&ホラー大賞』『第17回小説 野性時代 新人賞』(いずれも主催:株式会社KADOKAWA)の贈賞式・祝賀会もあわせて行われます。なお、選評は『小説 野性時代 特別編集 2026年冬号』に掲載される予定です。
『幽民奇聞』はどんな物語?
収録作のひとつ「鬼婆図探訪」の主人公は、明治新政府軍の来襲によって家族や友人を失った二本松藩の少年・タキです。窮地に陥ったタキは、人並外れた強さを持つ、「キ」と名乗る怪しげな一団に救われ、目の見えない老女・秋姫の家にかくまわれることになります。理不尽な命令ばかりする秋姫とぶつかってばかりのタキでしたが、やがて二人の間には奇妙な絆が芽生え始めます。しかし、政府軍の魔の手が再び迫り……。
このほか、人語を話す大猿が書いた幻の書「狒々日記」をめぐる回想と証言を描く「夢狒々考」や、争乱と復讐に満ちた、とあるキの激動の半生をたどる「最後のキ」など、全四編を収録しています。文明開化と共に姿を消した、歴史の闇に生きる集団「キ」。その痕跡を、若き民俗学者・鶯谷玄也が追いかける連作集です。
著者・恒川光太郎さんのプロフィール
1973年8月18日、東京都生まれの53歳。2005年に「夜市」で日本ホラー小説大賞を受賞し、その単行本はデビュー作でありながら直木賞候補となりました。続く『雷の季節の終わりに』『草祭』『金色の獣、彼方に向かう』(角川文庫版は『異神千夜』に改題)は山本周五郎賞候補に、『秋の牢獄』『金色機械』は吉川英治文学新人賞候補に、『滅びの園』は山田風太郎賞候補に選ばれています。14年には『金色機械』で日本推理作家協会賞を受賞しました。ほかの作品に『スタープレイヤー』『ヘブンメイカー』『無貌の神』『白昼夢の森の少女』『真夜中のたずねびと』『化物園』『箱庭の巡礼者たち』『ジャガー・ワールド』などがあります。
山田風太郎賞とは? 第17回の最終候補作も紹介
山田風太郎賞は、戦後日本を代表する大衆小説作家・山田風太郎の独創的な作品群と、その作家としての姿勢への敬意を礎に、有望な作家の作品を発掘・顕彰するために創設された賞です。ミステリー、時代、SFなどジャンルを問わず、対象期間に発表されたなかで最も面白いと評価された作品に贈られます。対象は、毎年9月1日から翌年8月31日(奥付表記)までに刊行された日本の小説作品です。長編、短編集、連作短編集などジャンルは問わず、刊行時の判型による除外もありません。ただし、小説誌などに掲載された段階の作品は対象になりません。運営は株式会社KADOKAWA 文芸局が担っています。
第17回の最終候補作品は以下の5作でした(著者五十音順)。
- 澤村伊智『ざんどぅまの影』(KADOKAWA 2026年5月)
- 辻堂ゆめ『残火』(東京創元社 2026年8月)
- 恒川光太郎『幽民奇聞』(KADOKAWA 2026年1月)
- 伏尾美紀『誰何』(光文社 2026年8月)
- 藤岡陽子『青のナースシューズ』(KADOKAWA 2026年2月)
出典:株式会社KADOKAWA


